動物のための反戦

アメリカによるイラク攻撃が始まると、世界各地で「戦争反対」の声が上がりました。この声はネット上でも発信されました。ミュージシャンたちがこのメッセージを伝えるために署名を集めたり、コンピレーションCDを作ったりという動きもありました。その中で私は動物のために反戦を訴え始めました。古今東西、戦争の犠牲を被るのは民間人というのが世の常ですが、動物たちも同じく被害を受けています。それなのに人間は自分たちの被害で頭がいっぱいで、犠牲になった動物たちを思いやる余裕はないようです。人間が国家の私利私欲に動かされて始めた戦争によって、自然界に生息している動物たち、家畜として飼育されている動物たち、動物園や水族館で展示されている動物も含め、人間の思惑には何の関係も持たない動物たちが犠牲となります。家畜はまた食糧物資としても戦場へ運ばれます。
さらに、軍事利用される動物たちもいます。かつては移動手段としての軍馬が主でしたが、現在はそのほかの動物たちも、さまざまな軍務を負わされています。米軍は、イラクの生物化学兵器対策として、何千羽ものハトやニワトリを警報器がわりに使用しました。また、イルカが機雷探知に利用されました。米海軍海洋哺乳類プログラムによれば、シロイルカ、バンドウイルカ、ネズミイルカ、マゴンドウ、オキゴンドウ、ハナゴンドウ、カリファルニア・アシカ、オットセイ、トド、ハイイロアザラシ、ゼニガタアザラシ、ゾウアザラシなどが軍事目的で訓練されているようです。中でもバンドウイルカとカリフォルニア・アシカの能力が高いため、海軍がイルカとアシカによるチームを結成し、作戦を展開させています。彼らに課せられた主な任務は機雷の捜索、掃海、敵側のダイバーや不審船の警戒です。イルカにはエコーロケーションと呼ばれる音による対象識別能力が備わっており、この生物学的ソナーが機雷の発見に絶大な威力を発揮するのです。また人間のダイバーはサメに襲撃される危険がありますが、イルカはサメを巧く追い払うことができるため、人間よりも機雷除去に適しているとされています。イルカやアシカたちは音響追尾装置や様々な器具、ときには敵側のダイバーを攻撃するための武器を装着されて、米海軍の手先として働かされています。
イルカたちはいつも口元に笑みをうかべているような表情をしているので、あたかも喜んで任務を遂行しているように錯覚してしまう人もいるかもしれませんが、彼らは調教の結果、条件反射で行っているだけで、実際には自分に課せられた任務の意味などもちろん理解していません。米軍は、彼らに極上の食事を与え健康管理の行き届いた環境で丁重に扱っていることを主張していますが、結局は人間にとって危険が大き過ぎる仕事をやらせる「道具」として彼らを利用しているに過ぎません。この他にも米軍は、サメ、エイ、カモメ、軍艦鳥、鵜、鳩などを訓練して使っています。

ハトを調教して長距離飛行の速さを競わせる鳩レースと呼ばれる競技がありますが、このレース鳩はもともと伝書鳩や軍用鳩から発展したものです。伝書鳩は欧米では古くから軍隊や新聞社で利用されていました。第一次大戦中、イギリス軍は約一〇万羽の鳩を駆り出しました。敵の攻撃で火傷を負いながらも味方の陣地に情報を運んで息絶え、勲章を受けた鳩もいたそうです。
日本では一八八六年(明治一九年)に浅草公園の鳩を捕獲し、「使鳩法試験」を行ったのが鳩の軍用化の始まりと言われています。一九一九年(大正八年)には「伝書鳩調査委員会事務所」が設立され、それ以降、伝書鳩愛好家の組織などもできて全国に普及しました。電信が壊滅した関東大地震の際は、背中や足に管を付け、新聞原稿やフィルムを運ぶ伝書鳩が活躍したといいます。大平洋戦争中は民間から奉献されたレース鳩も含め、多くの鳩たちが戦場に送られました。戦時中は各地の動物園で「軍馬、軍用犬、軍用鳩の慰霊祭」が行われており、このことからも戦死した軍用動物たちの数の多さがうかがい知れます。また内地での空襲が激しくなると、動物園の動物たちは「治安維持」を理由に射殺されました。

動物のための反戦
動物のための反戦

人間と動物たちの平和な共存関係は徐々に破壊されていっています。寺社仏閣で参拝客から与えられる餌に鳩が群れる光景はなじみ深いものです。しかし最近は各地で、鳩への給餌が禁止されるようになってきています。近隣住民からの苦情や、石原東京都知事によるカラス虐待に次ぐハト虐待政策などがその原因です。人間の作り出した劣悪な動物飼育環境に端を発する鳥インフルエンザなどの人畜共通病が蔓延していることも、人々が鳩との接触を恐れるようになった理由のひとつです。かつて人間にとって利用価値があった時代には鳩は平和のシンボルとみなされ愛されていたのに、その価値がなくなるやいなや駆除を助長する意見が優勢になりました。
都会で一番多く見かけられる種類の鳩はドバトです。もともとカワラバトという種類の野生のハトでしたが、人間により飼育されはじめたもののいつの頃からか再び野生化して都市に棲みついたのがドバトなのだそうです。つまりドバトは野生のキジバトなどとは違い人間の手で作られた種であるから、人為的な都市の生態系に適応していると考えられます。ドバトは集団で行動するのでふん害が問題視されていますが、都市の野生動物である彼らにとって街の中の建物はすべて林や森に等しいのです。人間は、都市部での野生生活に彼らを適応させてしまった責任をとって、駆除どころか反対に手厚く保護する義務があるのではないでしょうか。鳩たちにとって社会が今後ますます住みにくいものになってゆくのは明らかです。この可憐な鳩たちの運命を考えると、暗澹とした思いが込み上げてきました。

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